現役の越境ECコンサルタントが案内する実践的な海外向けネットショップ開業ガイド|クロスボーダー eCommerce

デジタルコンテンツの越境EC Part 2- ショップ構築時の重要ポイント

Adobe Creative Suite Family Software Logo Vector

おはようございます。今回は前回の投稿(デジタルコンテンツの越境EC Part 1- 基本モデル)の続きです。デジタルコンテンツ(音楽/動画配信、ソフトウェア、オンラインゲーム、デジタルキャラクター、電子書籍、クラウドサービス等)商材は越境ECに最も適した素材であると申しました。なぜならば、デジタルダウンロードやストリーミング配信は基本的にインターネット上のみで国境をまたぐトランザクションが完結し、物理的な国際物流を必要としないため、運用が楽であり、ショップ立ち上げも容易だからです。また、高い粗利益が見込める商材というのも魅力的です。

日本のデジタルコンテンツは世界に対してキラーコンテンツをたくさん持っており、競争力がある分野です。さらに政府のCool Japan政策の後押しもあります。一方、美味しい果実を得るためにはもちろん留意点もありますので、今回の投稿では、海外向けデジタルコンテンツ用ネットショップを構築する際の重要ポイントを説明します。次回のPart 3では、ネットショップ開店後の運用時の重要ポイントについて整理したいと思っています。

下記は4章から始まっていますが、3章以前は前回の投稿にあります。

4. ストア構築時における重要ポイント

4-1. サイト言語&ターゲット国

サイト言語を英語だけにするのか、中国語・韓国語・ドイツ語・フランス語・スペイン語なども加えていくのかをターゲット国を考慮しながら決定していきます。対象となるデジタルコンテンツ自身がどの言語に対応しているかも、判断材料とします。ソフトウェアの事例でいうと、英語版だけで用意する場合と英語以外の多言語バージョンを随時リリースしているケースもあります。

4-2. 関税・税金

ここは非常に重要な点です。デジタルコンテンツ製品・サービスの販売はいとも簡単にネットワーク上だけで国境を飛び越えてしまいます。今までは日本の消費者が越境EC(Cross-Border)でデジタルダウンロード製品を海外から購入する場合には、関税・消費税が課税されることはありませんでした。物理的な製品のように、日本の税関を通るわけではないので、捕捉することができなかったからです。分かり易い例ですと、日本の消費者がAmazon USストアから電子書籍を2015年9月30日までに購入した場合、消費税が課税されず、購入することができます。しかしながら、このスキームは消費税8%を課税しなければならない日本企業にとっては価格的に不利な条件となります。いわば不公正な競争環境となります。

この状況を公正な環境に是正するために、日本政府は今年10月1日から国境をまたぐデジタルコンテンツ製品への消費税課税スキームを変更します。海外事業者からデジタルコンテンツ製品を日本の消費者が購入した場合、消費税が課税されるようになります。つまり、海外事業者側は日本の消費者から税金を徴収し、日本の国税局に収めるという仕組みを用意する必要があるということです。同様のことが反対のケースでも始まっています。日本から越境ECでデジタルコンテンツを販売するケースです。すでにEUは今年1月1日から、韓国は7月から、日本同様の越境ECにおけるVAT課税スキームがスタートしています。よって日本企業はEU・韓国からの購入者に対しては適切なVAT(消費税に該当)をカート上で表示し、商品価格と一緒に徴収しなければなりません。徴収後、対象国の国税局に税金を納める必要があります。

これはつい最近、世界規模で進んでいるクロスボーダーECにおけるデジタルコンテンツに関する新しい課税スキームのトレンドです。米国でも現在議会にて審議中で2016年にはスタートするだろうと言われています。どうか細心の注意を払ってください。もしこの新しい税制に対応せずに越境ECで販売していた場合、対象国の税務当局より脱税指摘・追徴課税される可能性があります。詳しくは別の投稿で紹介したいと思います。自社ストアで販売する際には、自社で世界中の国々の税金ハンドリングをすることが必要となりますが、非常に煩雑な管理となります。事実上、超大手のグローバル企業でない限り、自社で運用するのは現実的にかなり厳しいと思います。ですので、各国の税金をちゃんとハンドリングしてくれるベンダーのカートシステムや決済サービスをご活用することをおすすめします。いづれ具体的なソリューションをご紹介したいと思います。

4-3. 決済・通貨

まず決済通貨を決めます。世界基軸通貨であるUSドルだけでスタートするのか、シンガポールドル・ユーロ・日本円・ウォンなど、ターゲット国の基準通貨も含めるのかを決めます。自国通貨が決済通貨として入っている場合の方が、コンバージョンレート的な観点では購入への心理的ハードルが下がり、もちろんベターです。スモールスタートの場合では、最初はUSドルとユーロだけにしておき、各国の売り上げの推移を見ながら決済通貨を増やしていくのがよいかと思います。

次にショッピングカート上の表示通貨です。これは上記の決済通貨と意味が異なります。カート上では多数の通貨を表示しておいて、実際の決済は金額は決済通貨での処理を行うことができます。購入時点での為替レートで変換され、プラス為替手数料を上乗せされ決済が完了します。例えば、カート上ではタイのお客様用にタイバーツで参考として価格を表示しておいて、決済時にタイバーツはUSドルに変換され、実際はUSドルで決済されます。

決済通貨とサイト表示用の通貨が決まりましたら、決済方法をどこまで揃えるかになります。国際的なデファクトスタンダート決済方法である国際クレジットカード(VISA/Master/JCB/AMEX)とPaypalだけを揃えるのか、あるいはターゲット国のローカルペイメント(日本であればコンビニ決済等、中国ではあればアリペイ・ユニオンペイ等、USであればチェック等)もカバーしていくのかを決めます。筆者の経験上、デジタルコンテンツの場合、まずはクレジットとPayPalだけで問題ないと思います。

4-4. 不正取引防御

これはEコマース上における詐欺対策のことを言います。Eコマースにおける詐欺発生レートは日本とドイツは1%以下と世界で最も安全な国ですが、他国はそんなに甘くなりません。中南米や中東などはひどい時にはこのレートが20%以上になる場合があります。デジタルコンテンツのEコマースで実際に詐欺が発生すると本当に痛い目に合います。。

不正手口はいろいろあります。典型的な手口をひとつ上げます。不正に盗んだクレジットカード情報でネットショップからソフトウェアから購入し、ダウンロードを完了させます。その後、購入したソフトウェアのコードを解析して不正コピーソフトを作成し、闇マーケットで販売します。クレジットカードを盗まれた方は当然見に覚えのない購入なので、チャージバックをカード会社に要求します。その要求を受けて、カード会社はネットショップ側にチャージバック料金を100%要求してきます。もし仮にこの犯罪者が1本1万円のソフトウェアを100万円分購入していたら、ネットショップ側は直接的な損害額として、この100万円が発生します。さらに海賊版を作成・販売されてしまったら、ビジネス機会の損失をまともに受けてしまいますので、被害額は何十倍・何百倍に膨らむ可能性があります。

国内での販売と違って、海外向けの販売した場合はこれらの不正を追跡することが難しいですし、日本の警察に届け出ても解決は難しいかもしれません。デジタルコンテンツはデジタルで作成されているので、コンテンツ内で強固なセキュリティを担保しない限り、リバースエンジニアリング等でいとも簡単に模造品を製造されてしまいます。

だからこそ、越境ECでデジタルコンテンツ販売を行う際は、不正取引を検知・防御機能が内蔵されているEコマースシステム、ショッピングカートシステム、決済代行サービス等を活用することを強くおすすします。最近はEコマース向けにチャージバック保険サービスを提供している企業も出てきていますので、チェックしてみてください。

4-5. 配送

次にデジタルコンテンツの配信方法です。購入者が決済完了後、デジタルコンテンツをダウンロードもしくはストリーミング受信ができる、「サイトURL・ライセンスキー・ID等」がメールで購入者へ届きます。デジタルコンテンツは数百MB程度のサイズからGBサイズまであり、各国からアクセスが集中するとパフォーマンスが極端に落ちる可能性があります。ですので、インフラ基盤・ネットワーク基盤がデジタルコンテンツに適したEコマースサービスやクラウドサービスを活用することをおすすめします。また、デジタルコンテンツならではの要件に適したEプラットフォーム、課金サービスを利用するとよいでしょう。SaaSタイプのカートシステムはたくさんありますが、大抵のカートは、ライセンキーの配信など、デジタルダウンロード販売に必要な機能がないので要注意です。

4-6. 不正コピー対策 & ライセンスマネジメント

これもデジタルコンテンツ製品を越境ECで販売する際に重要なポイントです。上記で申しましたとおり、コンテンツが不正に複製されないように、セキュリティを実装しておくことは海外向けビジネスでは必須な要件です。今まで日本国内でしか自社ソフトを販売してこなかったメーカさんと話す機会が多いですが、リバースエンジニアリング対策、不正コピー対策、不正利用対策を実装していないケースが多いです。理由を聞くと、「性善説」でビジネスを展開しているからだということです。しかし、海外向けではその考えは改めていただき、セキュリティ対策を行っていただきたいと思います。

ライセンスマネジメントも必要になってきます。どのシリアルナンバーとどの購入者が紐づいているという情報管理をしっかりやっておかないと、カスタマーサポート時、アップグレード、マーケティングキャペーンなどを行う際に困ります。サブスクリプションモデルを導入する際は必須の管理となります。

これらDRM(Digital Right Management:デジタル著作権管理)とライセンスマネジメントを一元的にカバーしているソリューションベンダーもありますので、今後、ご紹介していきたいと思います。

4-7. サブスクリプションモデル

最後に、今世界中のデジタルコンテンツ業界で起こっているビジネスモデル/課金モデルの大転換について、触れたいと思います。数年前までは、デジタルコンテンツの販売形態といえば、DVD/CD/ダウンロードでデリバリーし、一括で料金を払ってもらうモデルでした。パーペチャルモデル(Perpetual:永続的な)とも言います。

しかし、ネットワーク高速化、圧縮技術、ストリーミング配信技術、仮想化、クラウド化、サーバー・ストレージ・ネットワーク機器等のH/Wのハイスペック化と低価格カなどの技術革新が進み、さらにデジタルコンテンツは日々ネットワークを通してアップグレードできると特性が結びつき、サブスクリプションモデルが登場してきました。簡単にいうと、月額・年額等で課金するモデルです。一括払いより初期の支払い負担が減りますし、どんどんサービスがバージョンアップされて新しい機能が同じ料金で使えるようになるというモデルです。

代表的な例でいえば、Adobe Cloudの登場です。Adobe製品といえば一式揃えようと思えば20-30万円/1ライセンスかかっていたわけです。つい2年くらい前までそうでした。このパーペチャルライセンスをAdobeはついに止めて、月額課金のサブスクリプションモデルに全て切り替えました。私もこの時点でAdobe Cloudのユーザになりました。その前は20-30万円は高いと思って購入を迷っていたのですが、月額5000円でAdobeの全アプリケーションを使えるなんて、とてもリーズナブルとその時思いました。毎週のように何らかのアプリがアップグレードしていきますし、便利な機能が増えて重宝しています。

Adobe社の場合、切り替え初年度は売り上げが落ちたそうですが、3年目に入り、売り上げがパーペチャルモデル時より上がってきたそうです。私の経験ではサブスクリプションモデルに切り替えると10-20%程度、パーペチャルより売上が増加するというデータがあります。

海外のトレンドは完全にサブスクリプションモデルに移行していますので、越境ECを行う際にはご検討してみてください。

Part 2はここまでとします。デジタルコンテンツにおける越境ECのショップ構築時の重要ポイントを紹介しました。最終のPart 3では、開店した後の運用フェーズにおける重要ポイントを紹介します。残り少ないシルバーウィークですが、良い休日をお過ごしください。


関連記事

アーカイブ

ニュースレター購読

本ブログの更新情報やブログ投稿ではあまり扱わない、現役越境専門ECコンサルタントが仕入れた、越境ECに役立つちょっとしたネタ・速報トピックスなどを不定期で発信します。いつでも解約できますのでご安心を。