現役の越境ECコンサルタントが案内する実践的な海外向けネットショップ開業ガイド|クロスボーダー eCommerce

越境ECターゲット国の選び方。市場参入が容易な国と難しい国

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こんにちは。とうとうGW最後の日になりました。明日から仕事再開という方は多いでしょう。私もその一人です。やや憂鬱ですが、せっかくの休みなのでリラックスしたいと思います。さて、今日のテーマは、どの国をターゲットにしてネットショップを展開すべきなのか?という戦略立案を行う上で最も大切な要素のひとつについて、各国ごとの市場参入魅力度や参入難易度の観点から考えてみたいと思います。前回、前々回においては主要国のEC市場規模、潜在的な成長可能性、それから製品毎の消費者行動(どの製品カテゴリーをオンラインで購入するのか)について把握してきました。これらもターゲット国選定において参考となる指標ですが、ターゲット国外の外国企業がその国に対してネットショップ・オンラインビジネスでの市場参入を果たそうという時に、参入しやすい環境が整っているか、難しいのか、あるいは可能であっても相当手間がかかることが予想されるのか、についてあらかじめ理解することも、極めて重要な要素となります。EC市場規模がこれから急速に拡大が予想されている国は参入国として魅力的ですが、対象国の物流網が貧弱で都市部には配送できるけど、地方には配送できなかったり、あるいは配送リードタイムは日本では考えられない時間がかかったり、ネットワーク環境が劣悪でネットショップサイトに接続したものの途中でネットワークが切れて、コンバージョンにつながらなかったり、インターナショナルクレジットカードでの決済時において拒否率が非常に高い、などEコマースインフラが発展途上という国に参入しようとする場合はこれらの事情を考慮・対応する必要があります。一言でいうと、潜在可能性は高いけれど、余計な手間とコストがかかるということになります。一方、成長ポテンシャルが多少低い国であっても、ECインフラ基盤が整っていれば参入・運営コストも安く済み、ビジネスも早くスタートすることができます。これは基本的にトレードオフの関係になります。しかしインフラに関しては、今後改善される可能性はありますので、短期的に考えていくのか、中長期的に考えていくのか自社の戦略次第といったところかと思います。上記について、いい参考データがあるのでご紹介します。

 オンラインビジネス魅力度は米国1位、中国2位

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上記は経営コンサルティングファームのATカーニー社が今年発表した “The 2015 Global Retail E-Commerce Index”になります。一番右から「Online market attractiveness score」が「オンライン市場の魅力度」、「Infrastructure」が「オンラインビジネスを支えるインフラ基盤」、「Growth Potential」が「成長ポテンシャル」、「Consumer Behavior」は「消費者行動」、「Online market size」は「オンライン市場規模」を表しています。消費者行動についての明確な定義がレポートには記載されていませんが、推測するに、消費者がどの程度ネットを活用して製品やサービスを購入しているか等の意味合いなのかなと個人的には解釈しています。(間違っていたらすみません。)レポートから読み取れるポイントの整理を試みたいと思います。

1. 米国と中国、どちらへ先に参入するか?

オンライン市場の魅力度スコアは米国が1位で79.3ポイント、2位の中国が77.8となっています。両国ともに市場規模も世界でも最も大きな国に入るので、うなづける結果だと思います。しかし中身を見ると3点面白い違いがあります。「消費者行動・成長ポテンシャル・インフラ基盤」です。中国の市場ポテンシャルは86.1ですから、米国のスコアと比較すると66ポイントも差があります。(中国は群を抜いてNo1ですが。)一方、消費者行動は米国83.2に対して中国59.4というスコアになっています。米国の方が全体的にオンラインで購入活動を行う消費者層・割合も高く、経験値も高いのでこなれているということでしょう。中国は人口が多い分、都市部・中間~富裕層ではオンラインでの購入割合も上がってきているものの、地方や中間層以下等はまだオンライン体験はまだ途上段階ではないかと思われます。しかしこれらの層がオンラインにて移行してくるのはまず確実ですので、それが非常に高い成長ポテンシャルの要因のひとつにつながっていると考えられます。さらに注目すべきは、インフラ基盤の差です。米国91.5に対して中国43.6です。米国はオンラインビジネスを興すのに非常に容易であるということを強調しておきます。ネットワーク環境、物流、決済、Eコマースシステム、カスタマーサービス、法律整備面、税金等、オンラインビジネスに必要な要素を高い水準で揃っているので、少ない参入・運用コストで立ち上げることができるというメリットが存在します。一方中国は市場規模的には魅力的ですが、インフラ面は調査対象国においてもっとも低いスコアであり、オンラインビジネスに行う企業側にとっては非常に参入しづらい、参入したとしてもリソース・体制・Eコマース能力を必要最低限のレベルを維持するのに、現時点では大変だということになります。これは筆者が経験している実際の中国参入案件でも必ず壁にぶち当たります。中国は外国企業にとっては規制の多い国でEコマース分野も例外ではありません。外資系企業単独での参入は非常が厳しいのというのが実態です。中国国内でオンショア型(On Shore)オンラインビジネスを行う際には経営性ライセンス(ICPライセンス:Internet Content Provider License)を中国政府より取得する必要がありますが、ICPライセンスは中国企業との合弁会社での形態が必要で、出資比率は50%以下で抑えることが必要です。それに高い出資額も必要になります。この手法だとハードルが高いので、日本から中国へクロスボーダー(越境)でのEコマース形態や海外代理購入を取ったとしても、税関での管理監督下で複雑な処理が必要です。このあたりの詳細な状況と克服方法については追って紹介していきたいと思います。結論としては短期的には米国をまず最初にターゲットにし、中国は長期的に検討・準備を行うというステップを踏むのが妥当だとは筆者は個人的に考えております。もちろん製品特性・競争優位性の観点から米国では難しく、中国では需要が強く競争力も高いということになれば、優先順位は逆転します。

2. 2番目に魅力的な西ヨーロッパ

続いて2番手グループに属している3位の英国、5位ドイツ、6位フランスについてです。EUの先進国だけあって、やはりインフラ面は充実していますので、市場参入はし易いでしょう。英国は市場規模的にはドイツ・フランスより大きいですが、今後の市場ポテンシャル的にはドイツ・フランスのほうが魅力的です。ドイツの29.5という成長ポテンシャルスコアは先進国の中でも一番大きな数値なので、さらに魅力的です。ドイツの消費者行動は非常に振る舞いがよく、クレジットカード詐欺の総トランザクションにおける割合が約0.5%以下という世界中で最も低い数値で抑えられており、事業側にとっては極めて安心してオンラインビジネスを展開できる土壌が整備されています。ちなみに日本もドイツほぼ同様のレベルです。真面目で誠実という国民性が反映されていると考えられています。まずは英語のショッピングサイトを構築して英語圏のみにフォーカスして攻めるという戦略であれば、英国をターゲットとして選択するのが妥当でしょう。フランスとドイツにおいて英語サイトでのビジネス展開は不可能ではないですが、コンバージョンを上げるには現地語でのサイト対応のみならず、ローカル決済方法への対応やローカル言語でのカスタマーサービスが必須になりますので、プライオリティ的にヨーロッパ内では2番目という位置づけるグローバル企業が多いようです。ただ、インフラは整っていて、正しく実行すれば大きな成果にも跳ね返ってくる国ですので、大いにやりがいがあろうかと思います。

3. 魅力度が急速に増してきた東ヨーロッパ・ロシア

8位にロシア、9位にベルギー、15位デンマークについて触れたいと思います。いづれの国も前年度調査より大きくジャンプアップして順位を上げています。ロシアは中国と似て傾向を示しています。市場規模・市場ポテンシャルは大きいものの、消費者行動・インフラ基盤は低く、市場参入ハードルは高いといえるでしょう。ベルギーは面白いです。消費者行動・インフラ基盤が高く、なおかつ成長ポテンシャルも大きいという他の国ではトレードオフの関係になっている3要素が良い意味で成立しています。どうしてそうなっているのか、興味深いので追々調べてみようと思います。日本企業からベルギーに進出したいという案件は皆無に近いですが、穴場もしれません。デンマークが傑出している点は消費者行動が100点満点スコアであることです。

4. 市場が小ぶりながらも参入容易な香港・シンガポール

香港は12位、シンガポールは14位にランクされています。香港の市場規模は2.3ポイント、シンガポールは1.3ポイントと日本77.6ポイントに比較すると非常に小さな規模です。市場ポテンシャルも日本と同じくらいのポイントなので、同じ中国語圏でもある中国に比較するとやはり小さいです。しかしながら、インフラ基盤は両国ともに100、消費者行動も約90というECビジネスを行う基盤はパーフェクトです。外国企業にとっても中国と違い開放的に規制も緩く、市場参入が世界で最も容易な国のグループに属します。こういう属性から日本企業も昨今、両国への参入を果たす企業が後を絶ちません。筆者がコンサルをしている日本企業においても、アジア圏内のターゲット国に上がってくるのが、この2国と台湾です。前述のとおり中国は参入障壁が高いので、まずはこれらの国で中国語圏での足場を固めて、ノウハウを蓄積して数年後の本格的な中国本土上陸を目指す、といったステップを踏むことが多いです。クオリティの良い日本製品ファンが多い3か国ですから、ぜひスマールスタートでもよいと思うので、トライしてみてはいかがでしょうか。他の東南アジア国はちょっと癖があるので、優先度は高くなくていいかなと個人的は思っています。いづれ東南アジアでのEコマース展開については詳細を説明したいと思っています。

5. 案外見落とせない韓国

最後に7位でランクされている韓国です。言わずもがなお隣の国です。正直、ここまで魅力度が高いとは意外でした。世界でもトップクラスのインターネット大国でありますので、Eコマースの浸透度も極めて高く、インフラもほぼパーフェクトであるのも、うなづけます。Eコマースサイト運用は韓国語が必須ですが、言語的な壁を乗り越えれば市場参入は容易で、市場規模も小さくないので、そこそこリターンも期待できるように思います。両国間の政治的な課題はありますが、日本製品のファンも多い国ですので、十分やってみる価値はあります。

今日のまとめに入ります。日本はあえて触れませんでしたが、市場魅力度は4位に位置していますので、日本国内企業にとってもまだまだ魅力的な市場(競争はかなり激化していますが。。)だとグローバルな視点だと言えるようです。一方、日本市場に参入してくる、参入検討している外国企業は非常に増えています。筆者は海外に出たい日本企業のご支援をメインでやっておりますが、外国企業の日本進出サポートもカバーしています。今までは欧米企業がメインでしたが、昨年後半頃から中国大手企業の日本市場参入の案件が多く持ち込まれるようになっています。内需成長から外需成長へと本格的に舵取りを始めた証左と思えます。これらの状況を鑑みると、双方向(クロスボーダー)Eコマースは今後、爆発的に成長する分野なのかもしれません。日本企業はこの機を逃さず、積極的に国外へ市場機会を求めていただき、グローバルの成長機会を取り込んでいただきたいと思っています。その際にターゲット国をどこに定めるのか? 市場規模、成長ポテンシャル、消費者行動、インフラ面(決済、配送、税金、法律、IT、言語、Eコマースプラットフォーム等)を考慮しながら、選定していくことが大切なポイントになります。過去3回にわたり、グローバルのEコマーストレンドについて書いてきましたが、次回からは越境EC・海外向けネットショップをどう具体的に開業・運営していったらよいか、整理していきたいと思います。

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